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東雅
十六樹竹
桜さくら〈◯中略〉 むかし朱俊水に、こヽの桜花の事お問ひしに、桜桃は此にいふさくらにあらず、唐山にしても、もし此にいふさくらあらむには、梨花海棠の如き、数ふるにたらじと答へられしと、我師也し人は語りき、琉球、喎蘭陀等の国人のいひし所は、前の楓樹の下に見えたり、朝鮮に此物ありやなしやの事お、対州の人の問ひしに、かしこにある館中に、こヽの楊貴妃といふ桜お移し植て、其花の開きし時に、王城の人の来り見しに問ひたりけるに、かしこにもある也、其樹名おば〓(○)といふ也といひしと答へたり、正徳聘使の時に、其学士の稲若水に対へし所お見れば、彼国にも此物はなき也、さきに〓の字おもて対へしといふは、〓亦作柰ものおいひしと見えたり、