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壒囊抄

火桜とは何なる花ぞ 此名、歌には読て侍れ共、未釈せる文お不見侍、桜の名、都には多くあると雲り、顕昭が義には火桜と雲物更になし、蕪第(ふい)と書て、ひきさくらとよむ、若是お略して雲か、紅桜(くれなひ)お赤に付て雲かと申せり、朱桜(しゆわう)と書て庭桜とよむ、色もすわう色也、若是等おも申にや、桜色とは白お雲詞也、赤おば実色お雲かなんど古しより申侍り、其歌は、 あづさ弓春の山辺にけふりたちもゆとも見えぬ火桜の花