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草木六部耕種法
十一需花
桜と梅とは種類の極めて多き者なり、共に百余種づヽ有り、然れども梅は実お主として作る者は多く、花お主として作る者は少し、故に梅のことは下の需実篇に詳にすべし、桜は実より花お賞する者なれば、滋に其作法お論ぜん、凡そ桜類は高燥の土お好み、湿潤の処に宜からず、移植るには二月十月お良とす、冬至頃に根周囲(ねまはり)に、馬糞か厩肥の粉お入るべし、隔年に花の過たる頃に、鎌お以て処々の皮お剥べし、如斯すれば其創より肉お生じて、木も能く肥り、花も甚だ盛になる者なり、〈◯中略〉凡そ桜は実お蒔も能生じ、根分するも、〓木するも、能く活ものなれども、名花の枝お採て接木するより便良なるは無し、彼岸桜寒緋桜糸桜は、八重桜お砧(だい)にして接ぐべし、八重桜は山桜お砧にして接べし、花師山師(はなやにはつくり)等の桜お作て接木するお観るに、甫に数多の砧木お並て、皆此に接ぎ土お覆て、接梢少出し、其甫の四方に芫お立て卑き棚お造り、雨覆お設け、周囲にも藁筵等お以て囲お為し、能く活て芽の生長するに従て、漸々に土と囲とお取り除くときは、皆能く活て繁栄する者なり、