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太閤記
十六
吉野花御見物の事 文禄三年〈甲午〉二月廿五日、吉野の花御覧あるべきとて、大坂お立出させ給ふ、秀吉公例の作り鬚に眉作らせ、鉄黒なり、供奉の人々、我も〳〵と美麗お尽し、わかやかなる出立なれば、見物群集せり、廿七日紀州六田の橋お打渡り、市の坂に至て下らせ給へば新宅有、大和中納言秀俊卿より立させ給へる御茶屋にて侍るよし申ければ、則立寄せ給ふ、饗膳など上られければ、御心よげにすヽみまいらせられ、それより千本の桜花園桜田ぬたの山、かくれがの松など御覧有て、秀吉公かくぞ詠じ給ふ、〈◯下略〉