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古今著聞集
十九草木
南殿の桜は村上の御時、式部卿重明親王の家の桜匂ひ異なりとて、うつしうへられけるとぞ、其後たび〳〵の炎上にやけにければ、又あらぬ木おぞうえかへられける、代々の御門、此はなお賞せさせ給ひて、花の宴お行なはる、承久に右馬権頭頼茂朝臣うたれし時、又やけにけり、やがて造内裏ありしに、この桜のたね大監物源光行が家にうつしうへたるよし聞へて、めしてうへられけるとぞ、いづれの時のたねにてか有けん、おぼつかなし、其桜もいく程なくてやけぬれば、今はあとだにもなし、くちおしきこと也、