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還魂紙料

秋色桜(○○○) 俳諧おもつて其名お知られたる秋色は、江戸小網町菓子屋の女なり、幼名お阿秋といふ、十三歳のとき上野の花見にまかりて、清水堂の辺、井の端にありて、大般若といふ桜お見て、井のはたの桜あぶなし酒の酔と口ずさみぬ、しかりしよりその桜お秋色桜といひけるよしは諸書に載て、たれ〳〵も知るところなり、其刻の老樹は枯たれど、今も其跡に糸桜お植て秋色桜といふ、観音堂の辰巳にて、側に井あり、井は御供所とかいふ所の板桓の裏なり、昔は此垣無かりし故、かヽる発句おなしたるなるべしと思ひおりしが、つら〳〵考れば此説おぼつかなし、