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佐渡志
四古蹟
御所桜(○○○) 羽茂郡小木村海潮寺にあり、花はうす紅のふたへなるが、殊に葩大きやかにして、其香の深きこと又類ひなく、尋常の桜には似るべくもあらず、伝へいへらく、昔し順徳上皇極て桜お愛させたまひ、遷幸ののち人して都より数種の花おめされ、泉の御所の南にぞ栽させられける、其中に此一種のみ水土に合ざりければ、重て御みづから所お撰ばせたまひ、援にうつして栽置せたまひけるとなり、中ごろまでは世に移る老木にてやありけむ、越後の国の古き童謡にも、佐渡の三岬の御所桜、枝は越後にとうたひぬ、何れの頃か枯ること二たびに及びて、今は其蘖生なりといふ、〈海潮寺縁起といふ物には、怪しきことのみち記して、実説に才に其末に出せり、今こヽに記す所は、加茂郡井内村の神職本間某といふものヽ家の旧記にしたがふ、〉