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大和本草
十二花木
梅 万葉集にむめの花、又うめのはなとも訓ず、梅花は独天下の花に先だつて開く故、百花魁と雲、花兄とす、其香色形容亦百花にすぐれたり、故花中第一とす、園には必先づ梅おうふべし、近年は種類多して雖不可挙計、白梅紅梅単葉重葉、此四類の外に出ず、範成大梅譜所載梅品多し、日本にも其品数不少、白き単葉の香あるお第一の好品とす、野にあつて未経栽接者江梅と雲、又名直脚梅、或謂之野梅、紅譜に雲へり、江梅猶香多し、梅お好文木と雲事、晋の起居注に見えたり、日本の俗に好文木(○○○)と称するは、白梅の香すぐれたる一種あり、古今倭漢梅お題詠せし詩歌あげてかぞへがたし、浅香山(○○○)は紅梅の単葉なり早梅なり、紅白梅(○○○)は江戸桃の如く、紅白一枝の内にわかる、八朔紅梅(○○○○)は八朔の比より開く、花小にして八重なり、西土にてこれお寒紅梅と雲、冬至に至て多くひらく、梅のさきがけなり、畿内の寒紅梅は西土にて浅香山と雲、九月よりひらく八重なり、但九月に開くは狂(あだ)花なるべし、〓月に開くお正時とす、故寒紅梅と名付く、凡他の紅梅は白梅におくれてさく、此二種は白梅に先だちひらく、鵝梅は興化志雲、実大者為鵝梅、日本にて豊後肥後より出、故に豊後梅(○○○)とも、肥後梅(○○○)とも雲、これ梅の猶大なる也、消梅は梅の猶小なる也、鵝梅と大小相対す、消梅は梅志及範至能梅譜に出たり、其花皆下に向ふ、甲斐信濃より出づ、故に信濃梅(○○○)とも甲州梅(○○○)とも雲、未開紅(○○○)は花未開時色紅なり、開て後色淡し、照水梅園史にのせたり、日本にもあり、八重の梅花なり、香あり、花皆下に向ふ故に名く、衆梅より花おそし、又近比黄梅(○○)あり異品なり、緑蕚梅(○○○)近年中華より来る、梅譜曰、凡梅花跗蒂皆絳紫色、惟緑蕚梅純緑、枝梗亦青、特為清高、王世懋が花疏に為梅之極品、花小にして尽開かず、花萼青く香よし枝青し、座論(○○)と俗名お称する梅あり、花一処に多く開く、実も同じ、同処に多く開き、実のりて座おあらそふに似たり、花は小にして八重なり、香よし、梅譜に重葉梅結実多双と雲是なるべし、八月梅(○○○)秋みのる上州にあり、しだれ梅(○○○○)其枝如柳其花単あり重葉あり