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世事百談
梅に鶯 梅に鶯およめること、和歌には常のことなり、鶯宿梅の故事、拾遺和歌集に見えたるより、猶さらなべて世人も鶯といへば、梅はかならずあるべきものとしもおもへり、いとふるくも、万葉集にも、鶯には多く梅およみ合せたり、詩にも葛野王の春日玩鶯五言に、素梅開素靨、嬌鶯弄嬌声といふ句あり、唐土にはいはぬことヽのみおもへるに、王維の早春行の詩に、紫梅発初遍、黄鳥歌猶澀といへるとぞ鶯梅お対する拠ともすべし、