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秋里随筆

宰府奇梅 抑宰府天満神とあがめ奉るは、菅原道真卿の霊おまつる事は、衆人よくしる所にして、利生あらたにまし〳〵ければ、近国はさらなり、遠つくにより歩おはこびけること、年々歳々とこしなへなり、然に明和の頃、東社屋根葺更(かへ)のさたにおよびけるが、神木の梅樹繁茂して、二三枝本社の破風に垂けり、よつて枝おおろさずしては、葺かゆる事かたかるべしと評定し、其朝社人枝お伐らすべしと出来りけるに、不思議なるかな、かの破風にたれたる枝悉くふりかはりて、葺更のさはりお除けるとなん、是まさに菅神愛樹お惜給ふ所ならむと、諸人奇異のおもひおなしけるとかや、又当社より梅守と号(なづけ)、白き絹おもてかの梅お封じ、朱おもて表に天満神の文字おしるし出す事なり、さればそのとし〴〵此守お受る諸人の数に応じ、実おむすぶとかや、これらも神の示し玉ふ所ならずや、