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玉勝間

梅はとぶといふ歌世俗にいひつたへたる、梅はとぶ桜はかるヽよの中に何とて松はつれなかるらんといふ歌、源平盛衰記には、菅原大臣、東風(こち)ふかばといふ御歌およみ給ひしかば、紅梅つくしへ飛行ければ、同じ御所にならびて有ける桜の、御言の葉にかヽらざることお恨みて、一夜が中に枯にけるお、源順が歌に、梅はとび桜はかれぬ菅原や深くぞ頼む神のちかひお、とよみけるよししるしたり、此歌おつくりかへたるにやあらむ、されど此順がといふも、本末かけあはず、いと〳〵つたなき歌也、