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倭訓栞
前編三十三毛
もヽ〈◯中略〉 桃は燃実の義なるべし、緅おもヽいろと雲は、花に据たり、後拾遺集に、みちよへてなりける物おなどてかはもヽとしもはた名づけ初けん、三千歳の故事は西王母より起る、八重桃、毛桃、姫桃などよめり、〈◯中略〉倭名抄陸奥の郡名に桃生おもむのふとよめり、されば又もむの転にや、実に細毛あり、揉て去べし、以黍雪桃の意にやともいへり、〈◯中略〉後撰に物いはばとはまし物お桃の花とよめるは、桃李不言下自成渓といへる故事によめり、三月三日に桃花お用うるは本草に据也、須磨兵庫辺には家ごとの軒に柳と桃お交へ挿り、桃の鬼お避る事は、神代紀に見えて本草にも、桃符桃橛お表出せり、