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古今要覧稿
草木
からもヽ 〈あんず〉 〈杏〉 からもヽ、あんず、漢名杏は、花信風雨水二候に配し、梅と艶お共にす、杏は皇国固有の種にあらざれども、本草和名、和名本草、和名類聚抄等にからもヽとよみ、古今集物名深養父の歌に、逢からもものはなおこそ悲しけれ、又新撰六帖にも、からもヽの歌五首あり、今はからもヽといはず、あんずと呼て、何国にも植て花おめで、実は果となし、仁も薬とし、〓嗽〓逆狗毒お解、其外功多し、花も婦人子なき者、二月丁亥の日、杏花と桃花お取陰乾して、戊子の日井華水にて服すといひ、又粉滓面〓にも、杏花桃花お用〈共本草綱目附法〉といへり、和漢三才図会には、信州最多而出杏仁といへども、今は伊予国殊に多く出すといへり、又杏仁お取るに、其皮肉お劃たるお乾し、果となし、煮ても食ふといへり、本草綱目集解、宗奭の説に、生杏可晒晡作乾果食〓之といへり、今西土より渡るは、仁大にして、生にて食ふに美味あり、かの人常の果とす、又杏〓の両面お磨して、小孔お明て笛となし、雉子おとるに用て、雉子笛といふとぞ、杏花は五弁淡紅にして、かヽへて開き、満開はせざるなり、又八重なるは満開す、大和本草に、一種花紅にして、八重なるあり、花大なり、単花に後れて開く事十余日、俗名六代、其木ひきヽ時花お見るによし、〈◯中略〉此花開かんとする時甚美し、今六代と呼花しれず、今八重あんず、花あんずといふは大輪なれども、淡紅にして紅とはいひ難し、莟猶紅なり、その背の蕚の辺は鮮紅なれば、蕾より半開の裏は美なり、されば昔六代と呼し種となしても佳なり、又もちむめあんずむめ、〈怡顔斎梅品〉すあんず〈通称〉と呼種は、其花あんずと一様にて、実の味酸なる故にいふ、怡顔斎味酸からすといひ、韻勝園梅譜にも、実の甘きこと杏のことしとあるは誤なり、杏の類多く有といへども、皆実の形状にて名お異にせり、又花戸にてあんずだちと称する梅多し、三国一酒中花と呼、梅杏に接(つが)ざれば活せず、岩崎常正曰、つらゆきと呼梅実は、〓肉お離れて、杏のごとしといへり、又杏条下に巴旦杏あり、あめんどう、あめんどうす、又あめんてるともいふ、和産なし、又あめんどうと雲あり、是は寿星桃なりと、本草綱目啓蒙に見えたれども、寿星桃はあめんどうすといふ桃なり、すもヽのあめんとうは牛心李なり、