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白石雑考
五木瓜考
林檎(りんきん) 多識編曰和名利牟古宇、俗雲利牟古、異名来禽、文林即果、貝原篤信曰、林檎りんご、 稲若水曰、林檎りんご、 俊水朱旅璵曰、花紅りんご、 右本朝諸家の説お考るに、我朝の昔りうごうと雲しもの、今はりんごと雲也、〈りうごう、即林檎二字の音お以て和名とはせるなり、この例猶秘訣にてあるなり、芭蕉おばせおと雲ひ、紫苑おしおんと雲も同じ例也、りんごと雲も、すなはち林檎二字の音おもてよびしなり、〉古にりうごうと雲ひ、今はりんごと雲もの、共に林檎二字の音なれば、りうこう、りんご、りんきん、其名異なるに似たれども、同く一物にて、〈木瓜おもけともぼけとも、もくかうとも雲へども、もとこれ一物なるがごとし、〉俊水の所謂花紅に、亦林檎の一名なれば、皆是異なる物には非ず、然るに近世りんごの外に、俗にりんきんと雲もの出来しより、夫おわかちしるすべき為に、多識編によりて、榲桲の字お以て、りんきんとなす、猶あやまれりとぞ雲べき、是りんきんと雲物の事お詳にせざるによりてなるべし、りんきんのこと下に注しぬ、