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一話一言

桜棠花〈◯図略〉 桜とばかりいへば桜桃にて、ゆすらの事也、文選詩、山桜発欲燃なども、山ざくらの事にはあらず、桜桃の事也、羅山集仁斎集などにも、桜おもて海棠とせり、猶垂糸海棠は此方のしだれざくらとみゆれども、海棠と桜とは大に異なり、今沈南蘋が画に桜棠といへるものあり、正しく此方のさくらなるべし、按ずるに、中華に古此樹なくして近頃此樹あり、因て桜棠と名づけて、海棠の一種とせる歟もしるべからず、明の宋景濂日東曲に、賞桜日本盛於唐、如被牡丹兼海棠といへば、日本にてさくらお桜といふ事、華人もしる所なるべし、〈又雲、垂枝海棠近来種樹家にあり、しだれざくらにあらず、〉後佐藤一見が新伝秘書お見るに、山桜桃はさくら、野桜桃はゆすらなりと清人いへるよし、黄蘗僧の詩にも、東来初見桜桃花と賦せり、