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大和本草
十果木
橘(たちばな/みかん) たちばなと訓ず、みかんなり、其花お花たちばなと古歌によめり、南方温煖の地、及海辺沙地に宜し、故紀州駿州肥後八代皆名産也、共に南土なり、紀州の産最佳、北土及山中寒冽の地に宜からず、故本邦にて北州無之、朝鮮亦然、本草に実おうへたるは気味猶まさると雲へり、諸木皆接(つき)木より実うへの木、実の味よく材に用にもよし、中華より来る陳皮は大にして性よし、年々多く来れり、日本の陳皮に性大にまされり、可用、今の世医多くは是お不用は何ぞや、陳皮お君薬に用る方に、和陳皮お用れば効なしと雲、入和中理胃薬則留白、入下気消痰薬則去白、本草曰、陳皮性能瀉能補、其功在諸薬之上、凡青皮陳皮枳実枳殻は、其採時の早晩と、実の老嫩お以分つ、嫩きは性酷しくして下お治す、老は性緩にして治高、去白にはぬる湯に塩お入、陳皮おひたし、洗ひ筋とうらの白膜お去刻用ゆ、是本草の説なり、白膜おうすくこそげ去べし、橘お十一月より雨おさけてかごに入、或わらにあらく包て日にほす、かべにそひて掛れば易腐、春月よく干たる時、器に納おき、咳痰久く愈ざるに、刻みて生薑お加へ煎じ用、甚験あり、其気味好し、痰お除き咳お止め、肺お潤し開胸、香気あり、果とし食しても味よし、能ほしたるは久に堪へて損ぜず、老人虚冷の人は生果お食せずして是お食ふべし、〓ともに用、白和かうじ(○○○○○)、遠州白和村にあり、故名づく、其皮うすく色黄にして味よし、不酸、みかんより大也、是真橘なるべし、与本草合へり、其味みかんにまされり、又一種よく白輪かうじに似たる橘あり、是亦みかんより大にして味亦よし、中華の橘なりとて西土にあり、温州橘(○○○)其葉蜜橘に似て薄小なり、其実の肌蜜橘に似たり、大亦同みかんより厚し、味も亦似蜜橘、皮の裏如柑、蜜橘より薄し、皮の味はみかんにおとれり、其色みかんより赤し、二三月に至りて味弥よし、土佐州より出づ、これお日本にて温州橘と称す、本草に橘譜お引て、柑橘温州の者為上事おいへり、凡中華の書に所記の品類と、本邦所在と同きあり不同あり、橘類など各有無異同あり、包橘(○○)、橘より小也、皮うすく瓤のへだて上より見ゆ、皮に光あり、熟して後色黄にして味甘し、本草に見えたり、又大かうじと雲物あり古人柑おかうじと訓ず今包橘おかうじと称するは誤なり、たちばなは橘の本名なるお、他果に名付るが如し、たちばな(○○○○)と雲物、かうじに似て小也、金橘より微大也、是本草所謂油橘か、未詳、皮薄く味すし、上少くぼめり、橘類最下品なり、たちばなは橘の本名なるお、此果に名付るはあやまりなり、紅橘(○○)あり、からより来れるみかんに形似たり、其色みかんより紅なり、本草朱橘と雲なるべし、又緑橘(○○)あり、味甘し、さ子なしみかん(○○○○○○○)、大さは常のみかんに同じ、味よし、山州長池、又紀州にもありと雲、