重修本草綱目啓蒙
二十一山果
橘 かくは(○○○)〈日本紀〉 むかしぐさ(○○○○○)〈古歌〉 にはこぐさ(○○○○○) かくだもの(○○○○○)〈共同上〉 たちばな(○○○○)〈和名抄〉 かうじ(○○○) 一名湘水夫人〈事物異名〉 洞庭仙子〈同上〉 洞庭佳味〈輟耕録〉 洞庭霜〈書言故事〉 洞庭霜熟〈故事白眉〉 洞庭顆〈同上〉 霜朱〈行厨集〉 〓精〈同上〉 黄金丸〈蔬果争奇〉 宜春果〈事物紺珠〉 金衣 金衣大丞相 星垂 陸吉〈共同上〉 玉局〈花暦百詠〉 樹一名青霧〈名物法言〉 譲木〈璘幾雑志〉 青皮一名剃骨香〈輟耕録〉 陳皮一名貴老〈輟耕録〉 今たちばなと呼で庭際に栽へ、或は春盤に用ゆる者は、別に一種にして、古へ呼ぶところのたちばなに非ずして、八閩通志の猴橘也、形金柑より微大にして、皮の皺粗く柑(みかん)の如し、本草或は医書に橘と雲ふ者は、皆かうじ類の総名なり、柑はみかん類の総名なり、橘と柑と種自ら別なり、本邦国史類に柑子と雲は、みかんのことなり、橘おかうじと呼ぶは、今の俗名にして、古名の柑子に非ず、〈◯中略〉橘は和漢共に品類多し、和産ありて漢名詳ならざるあり、漢名ありて和産詳ならざるあり、凡そかうじ類は皮薄くして、柑皮より皺細也、黄橘(○○)はしろかうじ(○○○○○)一名しらわかうじ(○○○○○○)、橘類の上品にして、遠州白輪〈一に白和に作る〉より出す、名産なり、形柑より大にして皮薄く、淡黄色にして光りあり、味甘くして柑の如し、城州玉水にもあり、京師に栽ゆれば形味共に変ず寒お畏る故なり、朱橘(○○)小而色赤雲雲はあかかうじ(○○○○○)、柑の大さにして皮の色赤く美し、一種漢種九州に多し、形大にして柚の如し、皮の肌は柑より密にして、皮厚く熟して色赤し、穣味甘し、〓甚少く全くなき者あり、方言とうみかん(○○○○○)と呼べども、みかん類に非ず、京師に栽ゆる者は形小に変ず、今舶来のみかんづけは、皆この朱橘なり、女南甫史に薬橘と雲、琉球にては桔餅(きつぱん)と雲、本邦にても製す、朱橘一名染血、〈女南甫史〉鱣血塘南〈同上〉緑橘(○○)は青色の時より食ふに堪ゆ、朝鮮より来る、和にてあおみかん(○○○○○)と呼べども、柑の類に非ず、乳橘(○○)は詳ならず、一名章橘〈橘録〉〓橋(○○)は大にして扁きお雲ふ、和産詳ならず、包橘(○○)は今春盤に用ゆるかうじなり、形柑より小く、皮薄く、浅黄色、肌細にして光りあり、縦にひだありて、穣の数外より見るべし、是かうじ中の下品なり、綿橘(○○)は詳ならず、沙橘(○○)は橘録に雲、取細而甘美之称、或曰、種之沙洲之上、地虚而宜於橘、故其味特珍、然邦人称物之小而甘美者必曰沙、如沙瓜、沙蜜、沙糖之類、特方言耳と、この品和産詳ならざれども、形小にして味甘美なる者は沙橘と雲ふべし、油橘(○○)は詳ならず、大和本草にたちばなとするは非なり、早黄橘(○○○)はわせのかうじ、早く熟する者お雲ふ、一名早紅橘、〈女南甫史〉凍橘(○○)はおくてのかうじ、穿心橘(○○○)は凡そかうじ及みかんの扁大なる者、皮お去れば中心に穴の透りたるお穿心と雲、女南甫史に、扁橘、一名穿心橘と雲、扁橘は即ち〓橘なり、此説従ふべし、穿心橘お橘録には軟条穿心、一名女児橘と雲、茘枝橘(○○○)は、皮にいぼ多お雲、かさみかん、かさ柚と呼ぶ例にして、下品のかうじなり、この外品類多し、皮お薬用とす、青皮陳皮共に橘皮なり、今柑皮お代用ゆるは非なり、柑皮は別に主治あり、千金方に甘皮と雲は柑皮なり、薬舗にかうじの青き皮お乾たるお橘皮と雲、これ真の青橘皮なり、この中に枸橘の皮お雑ゆるあり、撰ぶべし、橘の熟して皮の色黄になりたるお陳皮とす、是真の黄橘皮なり、又紅皮とも雲ふ皆陳久なるお良とす、故に陳皮と名く、朱橘の皮お良とすれども、此品希なる故、黄橘の皮お用ゆ、是も多からざる故、包橘の皮お代用ゆるも佳なり、陳皮の白お去お橘紅と雲ふ、船来の青皮陳皮共に偽雑多し宜しく撰ぶべし、柑柚橙の皮雑れり、古渡の青皮に四つに切て乾たるあり、附方に謂ゆる四、花青皮なり、一名蓮花青皮、〈本経逢原〉又古渡には、化州老井と楷書の印おしたるもあり、化州の朱橘は名産にして、橘皮となし売ること、広東新語に出づ、幼幼集成に化橘香の名あり、又青皮陳皮共に自ら去りて渡るもあり、和産の陳皮は皆柑皮にして真物にあらず、