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広益国産考

蜜柑お仕立る事 前にも雲ごとく、何国にても苗お求めなば、摂津より調給ふべし、同じ蜜柑の内にも大小あり、中蜜柑お植べし、紀州も多し、中蜜柑お作ると見えたり、大は大平(おほひら)といひ、中より一かさ大きく、味ひも中に勝りけれども、実と皮の間透て永く持ず、春暖には早く損ずる也、大蜜柑といへるは又別種也、李夫人は西国には種子なし、蜜柑といへるはすこしもかはらねども、李夫人に勝りて味ひ美にして更に〓なし、李夫人は美味の内少し酢気あり、一菓のうちに一つ二つ〓有事あり、此外相似たる大蜜柑あれども味ひ劣れり、此種子なしは至て美味にして品よく、皮も九年房と同じく食るヽ也、多く植て国産とすべきとならば、紀州にて作る中蜜柑と大平(おほひら)と西国より出る種子なしとお沢山植べし、其外九年母お少々作るべし、必直段下直なりとて、みだりに苗お求むべからず、 蜜柑の苗お仕立るには、先摂津の東野より遠方ならば、二年物の上接苗お調植べし、二三日路にて届所にては、四年物位の成長したるお調べし、先此苗木お拾四五本植べし、最初に枳穀の実お取、三四寸間お置、実お丸ながら並べ植べし、五月時分に一つの実より弐三十本程芽お出し、二寸余にもなるべし、夫おこき揚わけて、一本宛別畑に畦(うね)お拵へ、熟糞おかけ日に乾し切かへして、其所へ壱本づヽ弐寸程づヽ間置並べ植、水おかけ日覆ひおすべし、猶少し日ももれ雨ももるヽ如く、うすき薦お覆ひ家根にすべし、八月には覆お取べし、然すれば九十月頃には四五寸に伸べし、夫お霜月にはこぎ揚、横にかため、なヽめに植、藁にて直に霜覆ひして、其冬置、翌春三月取出し、又畦お綿作のやうにいたし、それへ間八九寸置ならべ植、其年の夏の土用迄に、二度肥すれば、煙管のらお竹、筆の軸位には成長するもの也、其冬は其儘霜覆ひして、翌春の接木の台とする也、 扠翌春二月末三月上旬、枳穀の木の芽青くなりたる時、下にある図のごとく〈◯図略〉伸たる枳穀お土際弐寸程のこし鋸にてみな切べし、