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西遊雑記

八代〈◯肥後〉は古き所にて、市中凡五千余軒の地也、然れ共辺鄙の町ゆへに、諸品自由ならず、さて此在々に於て、名産と雲蜜柑の木お見るに、紀州の蜜柑とは異にして大樹也、〈大ひなるは畳二十畳も有〉夫にても若々敷、見事なる蜜柑のおびたヾしくなる事也、紀州にては若木ならでは見事の大なる蜜柑の実のらざる故に、古木は切捨て、次第々々につぎほおして、若木計お植る事なるに、此所にては古木の大樹ならでは、見事なる蜜柑実のらずと雲々、地の利其地のよしあしによつて異なれば、経済の心あらん人は地の善悪お見、地によく生ぜる物お下民に植させ、地の利お残りなくとりて、後世の助けとなし度もの也、