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牛馬問

菅氏が曰、盧橘とは何物ぞ、予〈◯新井白蛾〉が曰、此物種類多し、同名異種なるものも有、先は本草の金橘といふものにして、世俗金柑という是なり(○○○○○○○○○○)、菅氏が曰、枇杷にあらずや、予が曰、文選の註誤て枇杷とすること、綱目釈名に詳に弁有、往て見るべし、然るに秘伝花鏡に、枇杷一名廬といふは、選註お誤襲なるべし、菅氏が曰、しからば戴叔倫が湘南の詩、盧橘花開楓葉衰の句解すべからず、予が曰、此詩廬橘楓葉と一時に有お以て、諸説紛々たり、可解、不可解ものは詩お解の要也、又さら〳〵と句意お軽く見るべし、叔倫、湘南に在て、東方の京に帰らん事おおもへども得ず、故に時去水流れて住まる事なきお歎ぜし也、よつていふ、我此湘南に来て、此水辺に遊びしは、盧橘の花の開く比なりしに、今来て見れば、早楓葉の衰の時節也、如此月日は過るに、我は都にかへらざる事やと解す、何の理屈に苦しまむ、菅氏哂、