[p.0439]
草木六部耕種法
十九需実
山椒(さんせう)は丹波但馬両国の産お極良の上品とす、俗に浅倉山椒と称する者是なり、此お作るには、宜く此両国及作州津山産の種子お植べし、他国の山椒とは、其枝葉の形状も格別に異なり、 此お植るには真土の肥地お精細に耕し、饒に糞苴お把錯(きりまじ)へ、良種子の自ら口お開たるお密閉(きおもらさ)ず貯へ置て、春分後に晴天ならば苗地に水銃お用て軽く水お灑ぎ、麻子(あさのみ)お蒔が如く疎に蒔付て、上に臘土お一寸許参て少し押し付け置き、時々水お灑て恒に畦お乾燥せしむること無れ、生ひ出て其苗六七寸に成長せし時に、予て植地お調理置て、雨降る日移栽べし、蓖お用て根の土の附たるお、一坪一本づヽ植るお法とす、此物は人の手風に触ことお嫌ふ、能く心お用ふべし、活著て後、時々草お耘り成長せしめて、寒中は根本に小便糲(せうべんぬか)〈糲(あらぬか)お�に入て、久しく此れお小便所に浸し置たる者なり、〉一升づヽも盛置べし、此の如くするときは寒気にも傷まず、勢能く繁衍して、四五年の中に実お結ぶに至る、山椒漬製法は、其実未熟にして軟なる時に採り、一夜清水に浸漬て其苦味お去り、籮に揚て水気お瀉(たら)し、其後樽に納て煮塩汁に漬るなり、其以後にても半黄熟したる梅子お錯交ときは、両方共に其味甚美なり、