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倭訓栞
中編一阿
あふち 倭名抄に練およめり、万葉集に相市之花と見ゆ、今俗せんだんといふは焼て香気あるおもて、和の赤〓檀と勅名お賜はりしによるといふ、華厳経に〓檀一銖お焼ば、小千世界に薫ずと見ゆ、諺に〓檀は二葉より香はしといふも是也、枕草紙にあふちの花いとおかし、かれ花に咲て必五月五日にあふもおかしと見えたり、名義是成べし、とき反ち也、其時にあふおいふ、韻会に、今人作粽、并戴練葉、五色糸皆汨羅遺俗といへり、今も田舎には端午に軒にさすともいへり、歳時記に、凡一年中花信風二十四番、始于梅花終于練花といへり、練のすそごは表薄色裏青色也といへり、藤原明衡の詩に、樗花菖葉自回辰と見え、万葉集にも樗およめるはあらずといへり、此字およめるも、本草に、五月五日、俗人取樗葉佩之避悪気といふによれり、〓およむは樗お悪木なりと注せるによれる倭字也、新撰字鏡には、〓もよめり、松岡翁の説に、練と苦練とは別也、苦練は近年和州より出たりとぞ、今黄練樹といふ物にや、