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草木六部耕種法
二十需実
漆樹は諸農書に、唯其膠液(たのうるし)お掏採(かきとる)の法のみお説て、絶て実お採ことお論じたる者なし、且漢土人の有識多きお以て、尚漆木子(うるしのみ)に蝋有ることお知らず、故に本草お始めとして、種々物産書地志等の多きこと倒牛折軸す、然れども漆子に蝋多きの説は、未曾見及ざるなり、蓋これ有ん、愚老〈◯佐藤信淵〉は未これお見ず、抑漆樹は第十六番の気候お得て、其実能豊熟す、故第十番以上の温暖地には豊熟せしめ易からず、然ども山間北陰の地に栽ば、亦能豊熟す、又二十番の寒国は必山南の陽地に栽お良とす、此お植るの法は、十二月上旬に、其実お臼にて搗、外売(そとから)と蝋気とお剥て其〓お採、半切桶(はしぎりおけ)に入て微温水お灌ぎ、叮嚀に洗て其蝋気お除去、五七日も此の如くして蝋気の無に至り、此お藁�(たはら)に入、土中に埋め、上に菰筵類お被せ、度々水お澆て温養し置こと、黄櫨の種子お養に全く同じ、翌年の三月上旬までに、予て苗地お調理、此お蒔、亦黄櫨の子に異なること無し、蒔き付たる年の九十月、苗延て葉落たる頃に、片手にて其苗お引抜て見るに、能引抜る苗おば悉抜棄べし、其中に横根の浅く十方に蔓て、容易抜ざる苗あらば、此おば抜棄ずに立て置べし、凡漆木苗今年蒔て今年中に生じたるは、大抵皆牡木(おぎ)なる者なり、牡木は実お結ざるお以て栽て益なし、故に皆抜棄べし、天地自然の性にて、牡木牡草(おとこぎおとこぐさ)は其根直に深く延下り、牝木牝草(めきめくさ)は其根横に浅く蔓滋お以て、其抜易は直根なる故なり、其抜難は横根の蔓たるお以て、或は牝木なるも知べからず、是以て立置のみ、牡木お悉抜棄て、其跡に水糞お饒に澆べし、翌年に生ずる苗は皆牝木なり、草お耘培養お懇にして成長せしめ、一尺三四寸に及びたるお植地に移し栽うべし、植地は熟畑(じゆくはた)の軟膨(ぼやかし)たるに宜し、路傍の行木等或は田畠の周囲などお軟膨て栽べし、水辺に植たるは、成長すること殊に速かなり、或は山野中に栽と雖ども、牛馬の力お用て能く其土お犂返、草茅木の枝葉等お耕錯(きりまぜ)て、其植る処お闊深二尺許づヽ地お軟膨て植るときは、早く成長して実お結こと多し、此お栽には正月中旬より三月中旬までの間と、八月下旬より十月初お以て良とす、雨後の湿あるに栽べし、五六寸の穴お掘り、根の土の附たるお栽て、上に肥土お少し高き程に覆ひ、押付て置ときは、日あらずして能活著(いきつく)者なり、漆樹は植付て他の草お耘り、心お用て培養ふときは、移栽て五年目には花お見せ、六年目には実お一升も結、七年目には二升にも及、八年目は三升余、九年目四五升、十年目には六七升に至、十五年には一斗二三升、二十年目には二斗以上、三十年目には三斗余、四十年目は四五斗、五十年目には五六斗の実お得るに至る、此れ漆木は長寿なる者にて、年お経るに従ひ、実結こと愈多が故に、会津には百年お越て、年々一石以上の実お生ずる大木有り、