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古今要覧稿
草木
はじ紅葉 はじ紅葉おほく歌によめり、文選注の櫨は、今の黄櫨木なり〈和名類聚抄〉といひ、又漆ぬるでの類なり〈大和本草〉ともみゆ、その葉漆に似て長く先尖り、霜後鮮紅に染て甚美観なり、余木の紅葉よりも葉の表深紅にして、裏は黄色にきは立てみゆるなり、その材お以て弓につくること、神代より所見あり、天之波士弓〈古事記〉天梔弓〈日本書紀〉とも書り、たヾし梔も櫨も皇朝のはじにはあたらずと〈本草綱目啓蒙〉いり、今世にても弓お作るに、かならず此木お以て側木とするなり、然れどもはじといはずして、はぜといへるより、別木にやとおもへる人もあり、この木はうるしの木に似て、身木も葉もうるしの如くにて見わけがたし、葉おならべて見れば、うるしは広く櫨は少し狭きが如し、然れ共秋の末に至れば、櫨の葉は黄色になり、其後赤みさして、黄赤交りたる色に成、〈是おはじ色といふ、鎧のおどし毛にはじ匂ひと雲これなり、〉終には紅になるなり、是おはじもみぢといふ、歌にもよめり、又此木お染草に用る故に、和名類聚抄にも染色具に出せり、心の黄なるところお取て、古は染草にして黄色に染たり、天子の御袍に黄櫨染といふは、この染草お用るなり、又この実より蝋おとる、是最上品也、凡蝋おとるには、琉球はじといふもの実大にしてよしと雲、此琉球はじも紅葉うるはしきものなり、葉は常のよりまるくゆたかなるもの也、