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重修本草綱目啓蒙
二十二夷果
椰子〈◯中略〉 樹頭酒 貝多羅樹の実より出る酒なり、貝多羅は此の註に貝樹と雲者なり、蛮国の産にして和産なし、紅毛人この葉お持来ることあり、全き者は長さ四五尺、闊さ五六寸にして勁く厚し、二つに折れて万年青(おもと)の葉の形の如し、淡褐色にして光あり、葉背中心に一つの縦道ありて高く出、その形方にして円ならず、此葉お闊さ二寸許、長さ一尺七寸に切りたるもの希に持渡る、全葉は甚希なり、この葉に蛮字お浅くほりたる者あり、即緬人取其葉写書と雲ふ者なり、又渤泥国の人書お写し、或は器物とすること、明の宋学士全集に出、皆紙なき故代用ゆるなり、昔天竺にて仏経おこの葉に写すと雲、翻訳名義集に、西域記お引て曰、南印建那補羅国北不遠有多羅樹林三十余里、其葉長広、其色光潤、諸国書写莫不采用と、又この葉お竪に細く切り、席に織たるおあんぺらと雲、東西洋考に貝多葉簟と雲是れなり、又和名に多羅葉と呼で、寺院に栽ゆる大木あり、葉は桃葉珊瑚(あおきの)葉の如く、鋸歯細くして厚く堅し、木刺お以てこの葉に字お書すれば、色黒くなる、又火にて炒れば黒斑おなす、故にてんつきのきと雲、一名かたつけば、〈豊州〉是も唐山にて貝多葉と雲こと通雅に出づ、本名は娑羅樹にして、七葉樹と同名なり、