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塩尻
十一
楓樹図 楓木は郭璞雲、白楊に似て葉円にして岐あり、時有て香しと雲へり、又字書には樹木高大にして葉三角なりと雲、我国古書にはかつらと和訓す、中世以来かへでの紅葉に此字お用ゆるは、似たるお以てにや、予東都にて楓木お見し、紅葉可愛、かしはの如く岐とがらず見ゆれども、大かた一物と覚えはべる、 賢按、楓木の説共に非なり、此時代は総じて産物にうとし、よつて楓木お見たる事なし、いふ所は黄櫨なり、和訓はぢもみぢといふは、せうし也、こえちかし、誤りてはぜといふ、もみぢは見事なれ共楓木にてはなし、今楓樹は喬木にて、東都染井村植木屋伊兵衛方に、享保の大君より拝領の楓樹あり、鶏冠木は黄櫨と別木なり、染井村にある事お知らしむるものなり、又按紅葉は色つく葉の総名なり、