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東雅
十六樹竹
欒むくれんじのき〈◯中略〉 児女の戯具に羽子(はこ)とも胡鬼(こぎ)子ともいひて、木欒子に鳥羽お植し物お、打揚ぐる板お羽子板とも胡鬼(こき)板ともいふ也、旧説には春初に羽子つきぬれば、夏に至て蚊にさヽる事なきまじなひなりといふ事あり、胡鬼子の名あるが如きその謂ありぬべき事なり、崔豹古今注に、無患子の事おしるして、昔有神巫、能符劾百鬼、得鬼則以此木為棒、棒殺之、世人相伝、以此木為器用、以厭鬼魅、故号曰無患と見えたり、我国にも其事お伝へて、胡鬼子といふものお作り出せしに、無患、木欒其子の相似たれば、竟に木欒子お用ゆる事になりしなるべし、すべて此国にして荊楚之俗お伝へし事少からず、胡鬼子の如きは、即今此に来れる喎蘭陀人の児戯にも似たる事あるなり、胡地の俗しかりと見えけり、