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伊豆諸島巡回記
胆八樹 たんはちじゆ 三宅島 島中に自然生多し、方言ちぎのき(○○○○○○)と雲ふ、伊豆村満願寺の山中に大木あり、其実お採りて食ふ者あり、其材は以て薪とす、 神津島 島中に多し、大木希なり、其材は薪とす、新島も亦同じ、 豆州諸島物産図説に依れば、之おほるとがる(○○○○○)と記す、即ち之お阿利襪(おりーぶ)と同一視せり、是れ誤認するに似たり、故に其全文お写録し併せて之が異種なることお弁ず、其説に曰く、ほるとがる八丈島山中処々有之、土名ちぎのき、本草に所謂胆八樹是乎、その樹冬青に類して、身幹端直、其葉尖長にして、淡緑色、冬お経て凋まず、春夏新葉発すれば、旧葉間々鮮紅なり、之お望めば丹青斑駁にして、錦繍の如し、その子大さ蓮子の如く、円にして微く肉お外にし、〓お内にす、〓内仁あり、之お絞りて油とす、 〈善之〉按、胆八樹子油、阿蘭陀より来る、之おほるとがるの油と雲、〈善之〉が父登、嘗て阿蘭陀人はあると雲者に就て、之お正して、その的お得たり、蓋し昔人此樹の本邦に存することお知らず、常にその油お蕃舶に仰ぐこと、数百年来、今尚ほ然り、若し苟も之お製して施用せば、以来急お蕃舶に告げずして薬用足らん乎、又伝聞、豆州熱海地方にも、亦此樹あり、俚人呼ではぼそ(○○○)と雲、又へぼそと雲と、 本邦固に此樹多く有之、安んぞ舶来お俟つことお為ん、