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遠西名物考
蘭おりはあ羅おれあ〈此樹の羅田名〉 按に、阿利襪は、西洋諸地に産する一種喬木の実なり、土人是お搾りて油お取り薬用及び飲膳灯油に供し、又四方に貨す、和蘭にて此油おおれいふ、おーりいと名く、左に挙る阿利襪油なり、舶来あり、俗間薬舗ほるとがるの油と呼ぶ、平賀鳩渓の物類品隲、並に小野蘭山翁の本草啓蒙に、時珍が綱目篤褥香の附録に出る胆八香お以て阿利襪油に充、又胆八樹お以て阿利襪樹に充つ、又胆八樹お以て、本邦豆州等に産するはぼそと雲へる樹に充つ、物類品隲に言、紀伊方言づくの木、本草啓蒙に雲、此樹本邦暖地に多し、俗名づくのき〈〓州〉しらき〈九州〉はぼそ〈豆州〉と雲々、今豆州産のはぼそお以て阿利襪樹の説に較考すれば、其樹葉花実の形容大抵相似たれども、但阿利襪樹の葉は対生し、且つ紅色とならずはぼそ葉互生し、又葉落るとき皆鮮紅色となる、又壬午の春、駿州及び豆州のはぼその熟実、並に未熟の者お多く得て、数々搾(しめき)に入れ搾り試るに、唯澀味の希味出るのみにて、油出ることなし、是れに火お点し、或は煎熬し試るに、絶て油気なし、然らばはぼそは阿利襪樹に非るか、