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古今要覧稿
草木
きはちす あさがほ むくげ〈木菫〉 きはちす、一名ねむり、一名ほこ、一名ほこのから、一名あさがほ、一名夕かげぐさ、一名鏡ぐさ、一名しのヽめぐさ、一名むくげ、一名もくげ、一名もつき、一名きはち、一名かきつはき、一名ほんてん花、一名ほてん花は、漢名お俊、一名俊華、一名俊英、一名俊木、一名麗木、一名木菫、一名櫬、一名日及、一名王蒸、一名日給、一名地蓮、一名朝生暮落花、一名花奴、一名朝華、一名朝菌、一名朝生、一名洽容、一名愛老、一名〓子花、一名無窮花木、一名藩籬草、一名奔籬、一名籬槿、一名牛不挨といふ、此種は和漢共に人家及び園甫にうへて、多く藩籬となすものにして、葉の状扶桑に似て淡青色、末尖りて椏叉なし、その花は仲夏より開そめて季秋に至る、形頗る木芙蓉に似て、小にしてその色淡紫のもの常に多し又白色、或粉紅、或は深紅、或は千葉、或は単葉の数種ありといへ共、すべてあしたに開そめて夕に萎み、さらにちり落る事なれば、此華の性なるが故に、漢書〈東方朔伝〉に、木菫夕死朝栄といへり、本草衍義には、朝開暮斂といへり、然るお文字集略〈和名類聚抄引〉には、朝生夕落といひ、爾雅の郭注にも、既に朝生夕隕といへるは、楚詞にいはゆる秋菊落英といひし落字の意なるべし、また一種俗に木はちす(○○○○)、一名ふよう(○○○)といふものあり、その漢名お木芙蓉、一名地芙蓉、一名木蓮、一名拒霜、一名華木、一名〓木、一名天英、一名錦城、一名秋華、一名酔客、一名文官といふ、此花また浅紅白色、及び千葉単葉の数種ありて、その花の艶なるは木菫よりもまされり、また一枝ごとに紅白相雑りて開くものお二色芙蓉といひ、又一蕚上に七華開くものお七面芙蓉といひ、又一種朝に開く時は、白色漸くにして紅色に変じ、夜に至りて深紅色となるものあり、漢名お添色拒霜、一名、添色芙蓉、一名文宮花、一名弄名芙蓉、一名酔芙蓉、一名三酔芙蓉といふ、もとこれ嶺南の産なりといへり、〈二色芙蓉以下本草綱目啓蒙〉扠爾雅に椵木槿櫬木槿といへるお、郭注に別二名也といひしより、諸家皆その説に因循し、遂にその二名お以て異称同質となすといへ共、今つら〳〵考るに、椵といひ櫬といへるは、もとこれ同類別種にて、椵の木菫は蓋し今の木芙蓉にして、櫬の木菫は即いまのむくげなるべし、これは説文に椵木可作床几、従木仮声、読若賈とみえたるは、即集注本草に、人〓讃お引て、三椏五葉、背陽向陰、欲来求我椵〈音賈〉樹相尋といへる椵と一物にして、爾雅にいはゆる椵木槿といひし椵は、人〓讃にいはゆる椵と、その葉大小の異なる事ありといへ共、そのかたち全く相似たるによりて、その名お得しにて、古は木芙蓉おさして、また椵木ともいひしなるべし、木芙蓉は本草綱目に、其葉大如桐、有五尖及七尖者とみへ、又秘伝花鏡には、葉似梧桐大有尖とみへたり、これはまた集注本草に、椵樹葉似桐甚大、又本草蒙筌にも、椵樹類梧桐葉而大といへるに暗合なれば、其義はおしはかりてしるべし、又救荒本草に、椵樹生輝県大行山々谷間、樹甚高大、其木細膩可為卓器、枝叉対生、葉似木槿葉而長大微薄、色頗深緑、皆作五花椏叉、辺有鋸歯とみえたる、周定王のいはゆる木槿も、また爾雅にいはゆる椵木菫の木菫にして、俊木槿の木槿にてはあるべからず、又いはゆる櫬は即俊の仮借にして、もとその正文のまヽに俊といふべきお、風土の異なる邦にては、それおよむ声親の如くにいひなせしより、遂に櫬字お仮借して、その方声に塡し也、その櫬字は説文に棺也従木親声、また春秋伝お引て士輿櫬といへるによるに、櫬と俊とはその義絶て異なるにても、その仮借なるは明らけし、しかれば椵といひ、櫬といへるは、もとこれ別種なるといへ共、ともに同類なるによりて、爾雅にはその二種お、すべて木菫とはいひしにて、たヾその二名おわかつのみの事にてはあるべからず、