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重修本草綱目啓蒙
二十五灌木
木天蓼 わたヽび(○○○○)〈和名抄〉 またヽび(○○○○) こつら(○○○)〈越前〉 はんざうのき(○○○○○○)〈播州〉 なつむめ(○○○○) 一名蓬萊金蓮枝〈野菜博録〉 深山に生ず、蔓草なり、長く木上に延く、年久しき者は藤大になりて木の如し、故に藤天蓼とも木天蓼とも雲、葉の形楕にして尖り、細鋸歯ありて、つるむめもどきの葉に似たり、互生す、冬は葉なし、春の嫩葉お生にて醋味噌お加へて食ふ、味辛し、五月半夏生の時、梢葉の面潔白に変じ、背は否らず、遠望すれば雪の如く花の如し、其下に至れば白お見ず、葉背は変ぜざる故なり、同時に葉間ごとに一花お生ず、五弁白色緑蕚皆下に向ふて開く、形梅花に似たり、故になつむめと雲、好事者葉お去て瓶花に供す、後実お結ぶ、形細長にして榧実の如く、内に細子多し、蘚恭の説に、子如棗許中瓤似茄子と雲ひ、蔵器の説に如棗と雲者是なり、この実味辛辣生食し、或は乾貯或は奄食す、又花既に開きたる者、それなりに泡て実の如くなりたるあり、五弁にして〓草実の小なるが如し、是即其病にして虫の巣なり、切れば内実の色白く蘿蔔お切たるが如し、内に虫卵少しあり、蘇容の説に子作毬形似檾子と雲者是なり、其味亦辛辣なり、今薬舗に販ぐ者はこの品のみにして、棗形の者なし、棗形の者は内に子ありて真実実なり、薬には是お用ゆべし、然るに蘇恭の説に子無定形と雲ひ、大和本草に二色の実生ずる故、またヽびと訓ずと雲、蔵器の説に如棗者お藤天蓼とし、蘇容の説に五弁のものお木天蓼とすと雲ふ、皆非なり、 小天蓼(○○○)は暖地の産にして小木なり、種樹家に多し、俗に崑崙花と呼ぶ、枝葉対生す、葉は梔子葉に似て長く尖て薄し、深緑色、夏月梢頭に枝叉お分て花お開く、五出黄色、一花の下ごとに各一葉あり、円小にして白し、霜後土窖中に蔵む、冬お経て凋ず、 増、釈名時珍の説に、馬蓼亦名天蓼と雲は誤なり、馬蓼には大蓼の名あれども、天蓼の名なし、天蓼は葒草の一名なり、