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大和本草
十二花木
山茶(つばき)〈◯中略〉 本草綱目に、山茶に海榴茶(○○○)、石榴茶(○○○)あり、是つばきの品類なり、日本の古書につばきお海石榴とかけるも由ある事なり、酉陽雑俎続集曰、山茶似海石榴、然らば山茶と海石榴は別なり、凡山茶は花の盛久し、葉も花も美し、多くうへて愛玩すべし、つヽじお植れば枯やすし、山茶は枯やすからず、昔は本邦に紅の単花のみありて、白つばきもまれなり、寛永の初よりやうやくつばきの数多く出来しにや、烏丸光広卿の百椿図序に、此比世にもてはやし品多くいできたる事おかけり天武の御時は古代なれば草木の奇花まれなるべし、白つばきおめづらしき物にせしはむべなり、今はつばき紅、白、単葉、重葉、千葉、其品多くして数おしらず、玉島山茶(○○○○)は無蕊多葩、一花に凡七十余片ばかりあり、白あり、紅あり、山茶の奇品なり、又南京山茶(○○○○)あり、葉長く葉の色常のつばきにかはれり、花も葉も異なり、是亦奇品なり、十輪山茶(○○○○)あり、一樹の中紅白数種異品多く開く、山茶は春植るに、不宜、五月中旬に可植五六月枝おさす、又春もさすべし、小枝お切て葉のうらの枝の末お一寸半許、馬の耳の如くそぎ、切口お二にわる、わりたる処根生ず、冷水に浸し置て挟べし、枝お切て後暫時も乾かしむる事なかれ、赤土お泥とし、雞卵より大に丸し、枝お赤土の丸にて包み土にうふ、挟むはあしヽ、しば〳〵水おそヽぎて土お乾かしむべからず、能活して後移し植ふ、四五年おへて花さく、さしつぎもよし、つばきは山茶と雲お、日本にいつの時よりかあやまりて、椿の字おばつばきとよめり、順和名抄にもあやまつて椿おつばきと訓ず、つばきは椿にあらず、椿は近年寛文年中からよりわたる、香椿なり、