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重修本草綱目啓蒙
二十五灌木
山茶 つばき 一名曼陀羅〈群芳譜〉 鶴丹〈輟耕録〉 本邦にて古より椿の字おつばきと訓ずるは、たまつばきの古訓お誤りたるなり、其たまつばきと雲は、今俗にきやんちんと呼ぶものにして、つばきの類に非ず、薬方雑記にも、日本山茶花、其国名為椿不名、以山茶也と雲、其下文に山茶の名お載するに、白玉、唐笠、白妙、高根、白菊、六角、加賀牡丹、渡守、春日、有川、朝露、乱拍子、薄衣、大江山、三国、玉簾、浦山開、荒浪、鳴戸、関戸、金水引等の号あり、朝鮮にては冬花お開く者お冬柏と雲、春花お開く者お春柏と雲ふこと、養花小録に出づ、山茶略して単に茶と雲、其品甚多し、花史左編、群芳譜、秘伝花鏡等に詳なり、和産殊に多して数百種に至る、此条下に数種お出す、宝珠茶(○○○)は俗名たまてばこ(○○○○○)、大和本草には、たましまつばき(○○○○○○○)と雲、千葉にして蘂なし、中心の弁開かずして、宝珠の形の如し、凡七十余弁ありと、大和本草に雲り、紅白の二色あり、海榴茶(○○○)は俗名わびすけ(○○○○)、又こちやう(○○○○)とも雲、石榴花(○○○)は俗名いせつばき(○○○○○)、又れんげつばき(○○○○○○)とも雲、下にある五弁大にして、中に細弁多く簇て千葉の御米(けし)の花の如し、躑躅茶(○○○)は俗名やぶつばき(○○○○○)、山中自生のつばき、単弁にして躑躅花の形に似たるお雲、山茶中の下品なり、宮粉茶串珠茶(○○○○○○)の二名、共に隻粉紅色とのみ雲ひ、形状お説ず、故に詳ならず、一捻紅(○○○)は俗名あめがしたとびいり(○○○○○○○○○)、白色にして、指にて押たる如き紅点あるお雲ふ、牡丹にも一捻紅あり、千葉紅(○○○)は俗名ひぐるま(○○○○)、千葉白は俗名しらたま(○○○○)、南山茶(○○○)は俗名からつばき(○○○○○)、大和本草に南京つばき(○○○○○)と雲、葉の形尋常の山茶葉より狭長にして厚く色浅し、花大さ四五寸、白あり、紅あり、間色あり、一名滇茶、〈章州府志〉蜀茶、〈同上〉鶴頂茶、〈群芳譜〉別に一種ちりつばき(○○○○○)と呼ぶ者あり、花弁一片ごとに分れ落ち、尋常の山茶の形全くして落るに異なり、春に至て花お開く、故に晩山茶と名く、秘伝花鏡及び洛陽花木記に出づ、京師紙屋川地蔵院にあり、因て此等おつばき寺と雲、凡そ山茶の実お搾て油お採るお木の実の油と雲、一名かたしあぶら、〈防州〉かたあし、〈長州〉かたいしのあぶら、〈肥前〉髪子ばりて梳の通らざるに少し灌けば、さばけて梳り易し、土に灌げば能く虫お殺す、 増、草木薬方雑記曰、日本山茶花、其国名為椿不名以山茶也、白者以白玉最、白玉一種花大色白而香、香如我里白百合花之香、開放于二三月、次則唐笠也、白妙也、在高根、則又其次也、至于白菊六角之類、花朶小不取焉、紅者以中為最、花大而香、加賀牡丹甚佳、花色大紅如牡丹、花弁辺、或有吐露白辺者、次則大紅牡丹、与渡守春日倶妙、雑色最佳者莫如有川、其白上有紅色如雲、朝露其色紅有白点者、乱拍子亦然、有薄衣色、如酔楊妃者有大江山、一本有三四色者有三国、一本乃三色者有玉簾、一本四五色者尚有浦山開荒浪鳴戸関戸金水引皆為上種、有加平牡丹唐糸鏡山唐椿山海牡丹諸種皆其下者、共有五百種、有一種天下奇、開花朶色百様、其国内亦少不可得者有一種、名五寸と雲、桃桐遺筆曰、日本紀天武天皇十三年三月癸未朔庚寅、吉野人宇閉直弓貢白海石榴とあり、是お白つばきと訓じ、又和名抄に、海石榴お豆波(つば)木と訓ず、共に誤なり、海石榴は朝鮮ざくろなり、海石榴おつばきに充るは、即山茶花の一種、花小にして大さ海石榴の花の如く、蒂は青くして筒弁おなす、是お俗にわびすけと名く、即海榴茶なり、一名海紅花〈楊升庵文集〉この海榴茶と海石榴お混じ誤るなりと雲ふ、