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古今要覧稿
草木
つばき 〈海石榴◯中略〉 薬方雑記に、日本山茶花の名目お載て、白玉、唐笠、白妙、高根、白菊、六角、加賀牡丹、渡守、春日野、有川、朝露、乱拍子、薄衣、大江山三国、玉簾、浦山開、荒浪、鳴戸、金水引等の号ありと〈本草綱目啓蒙〉見へたり、いはゆる唐笠、白菊、春日野、加州、有(ある)川、乱拍子、薄衣、玉簾荒浪、鳴戸、金水引等の名目は、詳に増補地錦抄に載せたれば、古のみならず、近世もまた我邦よりして此種お西土には伝へしなり、此実の油お今の俗には木の実の油といひ、其一名お周防にてはかたし油、長門にてはかたあし、肥前にてはかたいしの油といふ、此油は男女にかぎらず、髪のねばりて櫛の歯の通らざるに少し灌げば、よくさばけて梳けづり易く、又土にそヽげば、よく虫お殺すと〈同上〉雲り、今江都にて粥ぐものは、多く伊豆の八丈島より来る至て上品にして、あげものヽ料に用ゆる胡麻榧等の諸油にまされり、又此樹お焼て灰となしたるお、俗に山灰(あく)といふ、此灰は古より紫おそむる料に入るヽ故に、万葉集に、紫者灰指物曾海石榴之(つばいちの)とよみたり、今あるものはすべて丹波国山辺郡の内より来るといふ、〈国史草木昆虫〉〈考〉