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松屋叢考

三樹考 今の世神事に用るさかきは、和名抄に柃漢語抄雲、比佐加木といへるもの也、これに三種あり、一種は上品にて、葉もつやヽかなり、その状水木犀(もつこく)に似て、細実結(な)り、初は青色、熟れば黒色なり、武蔵国にて、左加木とも山左加木ともよぶ、一種は下品なり、俗に比左加木(ひさかき)とも比左々木(ひさヽき)ともよぶ、西国にては小柴といふよし、大倭本草〈十二の巻〉にいへり、その灰汁お取て布お染るに黄色なり、また一種比左々木(ひさヽき)とて叢生小樹あり、葉比左加木よりも薄く、嫩葉の葉鮮紅にて火のごとし、三種共に形状相似たれど、香気なければ、真の賢木に別て、比賢木とはいへるなるべし、比は疎劣の心にて、曾祖父お比々知々、曾孫お比々古、孫枝孫生お比古枝、比古波江、蓈お比豆知などいふも此よしなるべし、上野に刀禰(とね)川、比刀禰川、信濃に田井、比田井あり、これも真の刀禰川、田井より劣れる方に比の字おかうぶらせいへる也、比奈津女(ひなつめ)、比奈乃国も、都人、都所にむかへて劣の鄙女鄙土おいへり、かヽれば比左加木は真榊に似たれど、香気なき劣の木なれば、その名おへりとみゆ、