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古事記伝
三十六
佐斯夫袁(さしぶお)は〈夫字延佳本に天と作るは、次句なる夫お旧印本などに天に誤れるお宜しと心得て、此おもさかしらに改めたるなり、わろし、〉烏草樹(さしふ)おなり、袁(お)は余(よ)と雲むが如し、〈◯中略〉此樹契冲雲、今山里人はさせぼの木と雲、柃(ひさかき)に似て小き実あり、熟すれば紫の黒みたるやうにて、童などは取て食ふとぞ承る、柃は和名抄に見えて、今俗に毘左々紀と雲木なり、出雲風土記に、佐世乃木葉とあるは、此烏草樹にやと雲り、或人烏草樹は、今俗にさヽぶの木とも、しやくぶの木とも雲と雲り、〈出雲風土記大原郡佐世郷処に、須佐能袁命佐世乃木葉頭刺(かさして)而踊躍雲雲、〉〈また倭〓命世記に、佐々牟乃木枝とあるも此か、同書に佐々牟江御船泊給比、其処爾佐々牟江宮造令坐給支と雲るは、神名帳に伊勢国多気郡竹佐々夫江神社とある地なり、是も此木に因れる名にや、〉