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広益国産考

楮〈◯中略〉 駿州由井宿より興津の間さつた峠の山抔に三つ杈(また)といへるものお植て、倉沢其外にて紙に漉いだすなり、木は余り大木となる事なし、山に植て三四年目に伐て、楮お蒸やうに桶の蒸籠にてむし皮おむき、楮同様に干上置水に浸して皮おこそげ、河にて晒むして板の盤の上にてたヽき、紙に漉事は、楮の紙お漉に少しもかはる事なし、 此苗は冬より春にかけ花咲みいりたるお、五月に実の熟せし時取て干揚、春に蒔ば追々芽お出すお、程よく間引、綿お仕立るやう致しなば、其十月には壱尺五六寸には伸もの也、夫お翌春山か畑などに植置ば、三四年目には大は火吹竹ぐらい、小は手の指ぐらいに伸たるお、右に雲如く伐て苧(そ)となし紙に漉事なり、此三つ杈(また)にて漉たる紙は唐紙に似て竪にもさくる也、武州辺玉川抔にて漉和唐紙は、此三つ杈お多く楮お少し入て漉事と見ゆ、江戸にて売所のがんぴ紙の下品なるは多く三つ杈にがんぴお少し合して漉たるもの也、何れ農家にては余作おして、定作の外に利お得る事おせざれば、立行がたきもの也、右楮と櫨は農家余作の内にて、利分多き作りものなるべし、