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広益国産考

三股お塁地に植益ある事〈三つまたはかみおすく木也〉 三股の苗お拵ゆるには、二月の末苗床おこしらへ、糞水お蒔ちらし、日にさらして打ならし、畦おつくり、麦か綿蒔やうにまくべし、 蒔旬は彼岸中より十日位おくれて蒔べし、 たねは前年初夏にとりおさめて土おまぶし、俵に入、乾き地の日あたりよき所へ埋置、蒔候時ほり出し、土おはらひ、二三粒宛三つの指にてひねり、上の皮おむけば、白く実出る也、是おまくべし、生ざる実はひねるに中黒く腐たる如し、 扠蒔たる実追々生出たるとき、しげき所は間引捨、小便七分に水三分お和して、度々かけて育れば、其年の冬は一尺二三寸、又は弐尺位に伸べし、 寒気強き所にては覆おすべし、 翌春三月上旬こぎあげ、植場所にやりて本植すべし、 植るには山の裾、又は茨抔の生たるお伐払ひ植べし、又は山畑などの荒たるお起し植てよし、植付て三年程になれば、凡六七尺にも伸る也、又三尺位に伸ざるもあり、其時は成長したる分其冬抜伐にすべし、 扠伐たるは家に持かへり、四尺位に伐揃へ、末の短きは中に結添、一〈卜〉だかへ半位の輪に結び、楮同様に蒸て皮おむき、干揚貯ひ置、用ふる時水に浸しけづりて河水にさらし、煎てたヽき紙に漉事は、楮紙に同じ事なれば、援に略して記さず、 此三つ股は枝三つづヽ出れば、自称の道理にて呼なしたる名と見えたり、駿州興津由井辺に作り、紙お漉て利お得るよし、又甲州にても漉ぬるよし、伊豆辺にても作りぬるか、あたみより漉出せる雁緋紙に下直成あるは、楮皮に此三つ股お交て漉たるものと見ゆ、江戸にて見及べり、また武州玉川にて和唐紙とて漉出すもの、此三つ股お用ふると見えたり、