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古今要覧稿
草木
ぐみ もろなり 〈胡頽子〉 ぐみもろなり、漢名胡頽子は、冬も葉凋まず、十二月花お開く、又九月末より十月に至りて開くもあり種類多き故遅速あり、花の形状は筒子のごとくにして、四弁白色、下に向ひて開く、早くひらきたるは敢て実の形お成すあり、其熟するは苗代の比なり、夫木集に、小山田のなはしろぐみの春すぎてと詠じたるには〓字お用ひ、本草和名には桜桃、一名朱桜、胡頽子と見ゆ、佐藤成裕曰、古の桜桃はゆすらにあらず、桜桃の一名に含桃の名あり、この含桃は胡頽子なり、鶯所含食といへるはぐみにあらざれば、含食とはいひ難し、桜桃は大にして含食すべからず、本草和名に桜桃一名胡頽子となす、故あれども未だ証とすべき書お得ず、猶胡頽子釈名に、陶弘景の注に、山茱萸及桜桃皆言似胡頽子、凌冬不凋と見ゆれども、証となし難し、また救荒本草所載の野桜桃はぐみなりと蘭山の説なり、猶この野桜桃は夏ぐみにて、胡頽子集解にいふ木半夏なりといへり、それは葉細く薄くして、季秋には落ず、ぐみの種類本草綱目啓蒙に詳なればこヽに載せず、又山茱萸本草和名和名本草にいたちはじかみ、一名かりはのみとみえたれども、今和漢通名にして、山茱萸といへり、此花早春より開きて、梅と共に称すれば、是又桜桃に列すべし、又其実お形様するに、胡頽子は山茱萸に似たりといひ、山茱萸は胡頽子に似たりといへり、又古より茱萸おぐみといひて、九月九日用ゆるも、茱萸袋といへり、この木、享保年中に漢種渡り、今世に多く栽ゆといへるは、漢種なれども、元より皇国自生もありし故なり、