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草木六部耕種法
十一需花
石楠花(しやくなんげ)は高山に繁生するものなるお以て、此お植るにも其心得お為すべし、故に糞小便等の不浄なる肥養お用るは皆宜からず、植地は山土野土の宜きは論ずるにも及ばず、若し真土赤土等に植るには、白沙お等分に耕交(きりまぜ)へ、少しく胡麻油糟、鶏糞お肥養にして植べし、日光の黒髪山は、中禅寺の華表より上方絶頂に至るまで、石楠花極て多く、年々四五月花盛の頃は上り三里の間満山皆花にて、其美麗なること吉野の桜と伯仲すべし、富士山及び奥州会津万歳山、信濃御岳、紀州金峯山にも石楠花多し、大峯の石楠花は其葉細長くして、挟(けう)竹桃の葉に似たり、華の形色大抵日光に同じ、此お根分するも移植るも、三月九月お良とす、又枝梢等お切て玉刺(たまざし)の法、予〈◯佐藤信淵〉が〈接木の篇に詳なり〉術お行ふも能活ものなり、