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壒囊抄

躑躅おつヽじとよむ、字体草木に縁無は如何、 此問実に然り、本名は山榴也、其花赤して柘榴(せきりう)に似たる也、是お躑躅(つヽじ)と雲事は、古事に依て也、申さば異名なるべし、千金翼方と雲本草に雲、羊食此花、躑躅(てきちよう)して而弊、故に雲爾と、文選には躑躅(てきちよく)と、たヽずむとよめり、注には不安の貌と雲、立煩悩姿なるべし、或はふしまろぶとよむ、同心也、羊此の山榴の花お食て、立煩ひて弊死けるより、つヽじの名とはする也、或説雲、羊の性は至孝なれば、見此花赤莟、母の乳と思て、躑躅して折膝お飲之、故に雲爾共、此義難信用、又本草文に違へり、但事広ければ何なる文の説にか、陀羅尼集経雲、迦羅毘羅樹(きやらひらじゆ)、唐には雲躑躅(てきちよく)と雲雲、花赤き故に映山径共雲也、但順和名には、山榴おばあいつヽじと点せり、和名雲羊躑躅、〈いわつヽし、一雲、もちつヽし、〉茵芊(いんせん)〈まつヽし、一雲おかつヽじ、〉山榴(あいつヽし)〈予以山石榴也、花羊躑躅相似雲々、〉