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古今要覧稿
草木
につヽじ 〈茵芋〉 につヽじ、一名おかつヽじ〈和名抄〉みやましきみ、〈通名〉漢名茵芋も、上に出す山礬馬酔木と同じく、大寒前よりも蕾お生じ、開くは雨水より啓蟄盛おなす、岡村尚謙曰、茵芋爾都都之、〈本草和名〉乎加都々之、〈同上〉俗に美也末之岐美、此小木也、高一二尺、葉似莽草、両両相対、冬不凋作穂、開花四弁白色、後結実、生青熟赤大如南天燭子、即蜀本図経日華子所註是也、諸国深山幽隠之地有之、其乎加都都之、別是一種、勅号記、茵芋乎加都都之、四月花白、本邦有赤紫白三種、又羊躑躅条雲、之呂都都之生深山といへるは、躑躅のつヽじにして、この茵芋とは絶て別なり、茵辛の和名につヽじ、おかつヽじの二説有は、本草和名、和名類聚抄ともに同して、共に羊躑躅の条下に附して、羊躑躅の和名いはつヽじ、もちつヽじといへば、つヽじの類と思へども、今花信風山礬の類となして、大寒三候より春かけての花となすは、この茵芋なり、其形状は尚謙の説の如し、又一種緑蕚の種あり、本草綱目啓蒙に見えたり、啓蒙にもれたるは、栗本瑞仙院松問栗答雲、みやましきみに似て異なり、箱根山中にあり、此みやましきみの一種、瑞香葉様物なり、葉は枝端にあり、四葉六葉一所に攅生す、これ本性なり、漢名茵芋此もの一種闊大の物あり、葉の蒂紅色美なり、花実なき時はみやましきみなること的識する者なし、葉紋理なく小皺ありて、瑞香葉に似たり、表深緑にして裏淡しと見えて、円お載たり、其葉瑞香の葉に似て長大なり、実の赤熟したる枝なり、この瑞香葉の種は蘭山いまだ見ざるにや、啓蒙にのせず、また正二月枝頭に花あり、穂おなすこと二寸計、花の大さ三分五弁白色と見ゆれども、五弁にはあらず、尚謙の説の如く、四弁にして花心は緑色なり、此茵芋山礬馬酔木の三種は、共に白小花お開きて、皆穂おなすなり、その開花も同時なれば、こヽに載れども、古の茵芋につつじの名あるは、即赤つヽじにして、今の山躑躅なりや、和名抄に羊躑躅茵芋山榴と次第して、山榴和名阿伊豆々之、山石榴也とあれば、本草綱目山躑躅の一名にして、又紅躑躅とも映山紅ともいへり、これはやまつヽじと呼て、山に自生の種なり、この茵芋につヽじの名あるによりて、寺島良安も、茵芋和名有躑躅之号未詳、今躑躅類中無結実者、また茵芋莽草皆古人治風薬為妙品、近世罕知といひて詳ならざりしお、今は庭園に植て花は春早く開き、実は秋より染なし、赤紅にしてめづべきものなり、此茵芋の名は古く、神農本経より見えて、皇国にても本草和名、和名類聚抄にも見えて、につヽじおかつヽじと銘ぜしは詳ならざれども、茵芋は今いふみやましきみにして、その開くも山礬馬酔木と同じ、花彙にも冬梢間に五出砕花お著くと、その冬開くといへるは、冬より蕾お生ずれば可なり、又五出とあるは誤写なり、円には即四出に書たり、