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古今要覧稿
草木
あせび〈あしみ〉 〈馬酔木〉 あしび、一名あしみ、一名馬酔木、〈万葉集〉漢名〓木、処々山中自生多くして、今花戸莽草の代りとなして墳墓に備ふ、花ある時は挿花にも用ふ、これ右の山礬の類にて、花信風大寒三候の山礬と共に称すべし、松岡玄達の一家言に、一種称〓木者、花葉形状全同山礬、而有円葉尖葉之二種、但以花不香為異已、此又山礬下品、而益軒翁大和本草、以瑞香花為山礬者誤矣、また和漢三才図絵にも、山礬未詳、蓋沈丁花之類也といひて、是となすことなし、玄達の山礬、一種〓木に充しは、これ本草綱目灌木類山礬の条下に〓木お出せり、この〓木にあせみお充るお是とすべし、蘭山も〓木に充たり、あせみの莟は早く冬の中より生じて白し、故にこれお挿花とす、その開くは雨水より啓蟄盛なり、此花も穂おなして長さ二三寸垂て開く、その状丸くして白く先黄なり、其花開く時に、去年の実も落ずして存するもあり、葉は柃(ひさかき)に似て細し、其葉の色に黄色お帯て薄きあり、又深緑色なるあり、花は異ならず、又真淵の説にあせびしとみは木瓜の類にて、脚気の薬に用て功ありといへり、又下総にては塩蔵して、梅干のごとくに食ふ者多しといへり、しとみは本草綱目山果類木瓜の条下に出す、樝子一名木桃、一名和円子にして、和名しとみ、一名のぼけ、一名くさぼけ、又こほけちなしほけとも呼て、処々山野生ぜざる事なく多くあるものにて、本草綱目啓蒙にも山野に多し、高一尺許叢生す、広原の者は三四寸に過ぎず、山中の者は三四尺に至る、枝に刺多し、葉は占幹海棠に似て小し、春新葉出て後花お開く、形小にして、五弁重弁なる者希なり、大さ八分許、紅黄色、夏秋も不時花あり、花後円実お結ぶ、夏に至て熟す、大さ一寸許、頭尾共に凹なり、薬舗には横に薄く切り、真の木瓜と呼び売る、偽物ありといへども、樝子の主治雲に、功与木瓜相近とも見えたれば、木瓜の代用となして佳なるべし、又このしどみおあせびとなせば、山野ともに自生多く、千種の花よりもことかはりたる色にてめづべきなり、又この不時花は六七月開くは、春さく花に異ならざれども、九月の頃開く花は其蕚緑色にて、花の色は春よりも艶なり、衆草のおとろへたる中に、しとみの花の一二輪開たる、王安石が万緑叢中紅一点、動人春色不須多といへる句のかなへるは、此不時花に勝れるはなし、猶この句は春のことなれども、秋はさらなり、〈◯下略〉