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柿本氏系図
むかしならの御門の御時、かきの本の人丸といふいまそかりける、歌の道妙にして、院内へもおりふしごとにまいり、朝夕御遊のまじらひおのみし給ふほどに、御所がき(○○○○)とめさせ給ひける、さるべきいとなみもせで、のりおすりていちにうりければ、世の人御所がきのこねり(○○○)となむ申ける、子どもあまたもちたり、太郎さねなりは、あかしのうらにてまうけたる子なればかのうらに住けり、はやうまだきに、いと若き比より、びむひげしろくて、京にかへり、父とおなじく君様御前へもたち出、はか〴〵しきまじはりおゆるされたり、さればあまの子なればとてつりがき(○○○○)とぞめされける、木ざはし(○○○○)の次郎は、心ざま父よりはおとりけれども、はらからのうちには、いちはやきみやびするものなり、三郎なりけるは、かたちふつヽにかしてかたくななれば、ひえの山にのぼせ学問させけるが、びんぎのみねに行、みづから八わうじ(○○○○)とがうす、その弟あり、しぶ川のなにがしとかや武士のがり、入むこしてけり、心すねきしぶりて、世の人の口あかすべきもあらず、やう〳〵としへて後、しうともてあつかひて、様々いましめけることの中にうたてしきは、このむこしぶがき(○○○○)お粉にくだき、あぶらおこして、調度つヽむつぎ紙、ちはやぶる紙子おそめむとて、明くれうちたヽき、からきめうくるお、二郎あはれがり、かのしうとにたいめむして、我かたにてよきにいさめ申さん、しか〴〵とつぶやき、やがてしぶがきに青道心おこさせ、生干入道(○○○○)と号していてかへり、我かまどのうへ、軒の下などに、なはおもつてあら〳〵としめゆはせ、ぶらりとさげたり、月日へて後、今はこヽろもなほり、さまも見ぐるしからずとて、二郎ゆるしてけり、生干も道心ふかくおもひとり、こきすみ染にやつれはて、いと味よくありとみえたり、ひたすらむまれかはりたる心ちして、見る人これおあまつしとてもてはやしけり、かたちこそいな物、なれ、外には胎蔵黒色の相おあらはし、かきの衣のゆかりおもへば、頭巾ににたるへたあり、内には金剛の正体おふくむで、かめどもわれぬさねあり、今はむかしのしうと、えにくまず、あたらかはおなむど、くひの八ちたび、紙子しぶかみおもめどもかひなし、此法師がいとこにさはしがき(○○○○○)是も心いぶりになればとて、ふしづけにしたり、こヽろはすこしやさしきかたにもなりつれども、もがさのあときたなければ、法師が父のやうにうへ様へまいることすくなし、さはしが弟、筆がき(○○○)、おひころがき(○○○○)さねしげ、しなのヽぜんじさるがき(○○○○)、ひろ島のさい上へもんくしつら(○○○○)、太郎がまま子さいしん(○○○○)、是は人丸がまごちやくしなりといふ、その外はみなたこくにあればもらしつ、人丸けいづ 木こねり(こねり後に御所がきとめさる、老後順妙寺に住、出家して日蓮の門に入、ちやうめうじがきと世人たつとぶ) 太郎つりがき 次郎木ざはし(心ざまよし) 三郎八王子( /心すなほならず、ひえの山に学問して、こヽろあぢはひよし、) 四郎生干入道( /生干入道心ねふつヽか者されども、道心の後よくおこなひ、心あぢよくて世にもちゆる事はなはだし、十月五日より真如堂十夜参詣の人、是おたつとぶ、)弟( /実名くはしからずとしわかくして入めつか、) さはしがき( /見ざまいやし、心あしきゆへふしづけにし、は又水火のせめお得、後こヽろあぢよし、十月十夜に、世人もちゆるなり、十夜の後よおさけみえず、) 筆がき( /心あし、下さまの人もてはやす、) さいしん( /生つき心ねしぶとし、世の人もちひず、) はちや( /あにヽまさり世人もてはやす、心よし、) ころがき( /宇治三室辺に住) さるがき( /なりふり猶よし、見所ある体なれ共、おぢ生干入道わかき折ふしに能似て、人にくちあかさぬ生つき也、) くしがき