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東雅
十六樹竹
女貞たつのき〈◯中略〉 たつのき、ひめつばき等の名おもて呼ぶ物ありもやすらむ、いまだ聞かず、或人の説に、即今もちのきといふもの、冬青木也、与女貞同名、又名凍青といひ、亦一説に女貞は子ずみもち(○○○○○)といふ是也といふなり、救荒本草に、凍青樹高丈許、樹如狗骨樹、而樹茂盛、葉微窄而頭頗円不尖、五月開細白花、結子如豆大紅色などいふ如きは、即今此にしてもちのきといふものとぞ見えける、さらば或人の説の如くにやあるらむ、もちとは其木の茂盛りなるおいひしなるべし、花の繁くさきぬるお、もりさくなど万葉集の歌によみて、又茂の字読てもちともいふ也、藻塩草に黐木としるして、もちいのきと読みし歌お引きしは、此樹の事と見えたり、その黐の木としるせしは、此木の皮おもて黏黐となすおいふなるべし、黏黐おもちといふも、樹の名によれるにや、子ずみもちといふものは、倭名抄にば四声字苑お引て、〓鼠梓木也、漢語抄に子ずみもちといふと見えたり、古と今と名は同じけれど、さしいふ所異なるも知るべからず、藻塩草に〓といふものヽ如きは未詳なりと、若水稲子は雲ひたりき、