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大和本草
十果木
吉利子(うくひす/うすのき)樹 和名うぐひすと雲、所々山林にあり、小木なり、源順和名抄十七、鸎実和名宇久比須乃岐乃美、又左府頼長之台記にも鸎実の事あり、今按葉は山躑躅(つヽし)に似て両々相対す、又子安の木の葉に似てうすし、臘月より諸木に先だちて芽お生ず、正月に小花さき、三月に実熟す、ゆすらの如して紅なり、味甘し、ゆすらより早くみのる、実も両々相対して、葉の茎より内にあり、葉の茎の本より実茎生ず、異物なり、小児このんで食ふ無毒、うぐいすの始て諦時に此花もさく、故に名づけしにや、京畿にて臼の木と雲、其実の形臼の如く上くぼめり、山中処々にあり、伊賀にてはこしきぐみと雲、ぐみの類にはあらず、大さはぐみと同、本草桜桃三月末熟と雲、蜀都賦に朱桜春熟すと雲へども、今按四月熟す、吉利子は三月初より熟す、木実三月にみのるは百果の先がけなり、秋は葉紅にして落つ、立花の下草にする物也、救荒本草曰、吉利子樹一名急蘑子科、荒野処有之、科条高五六尺、葉似野桑葉而小、又似桜桃葉亦小、枝葉間開五弁小尖花、碧玉色、其心黄色、結子如椒粒大両々並生、熟則紅味甜、今按うぐひすの実両々並生す、他の果に異れり、救荒本草にいへるに皆よく合へり、