[p.0671]
草木奇品家雅見

享保の初年、華舶、一種の奇木お齎し、官府に貢す、奇特の良品也とて、染井の種樹家花家伊兵衛なるものに台命お下し給はり、接木せしめ給ふ、然るに未嘗知奇樹なれば、循巡して決せざりしが、熟その木の太山楓といふものに似(○○○○○○○○○○)たるお以て、これお官園に移し、砧として以て接立ければ、一樹おかヽず生育して欣栄す、後十二年ひろく世に蕃殖せしめんと、一株お伊兵衛に賜ふ、今其家に存して既数仞に及べりと雲、 亦榕椿(○○)は、古白花山茶お珍玩せし頃、山茶の中より一種の変葉お生ず、其状枸骨の如く、大鋸歯あり、依て榕山茶と名付て、今其種世上に往々是あり、元彼家より産すと雲、 因に雲、此伊兵衛は地錦抄の作者也、されば培やしなひに長じ、今子孫に伝へて此道お盛にせり、