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枕草子

五月ばかりに、月もなくいとくらき夜、女房やさぶらひ給ふと、こえ〴〵していへば、出て見よ、れいならずいふは誰ぞと、おほせらるれば、いでヽこはたそ、おどろ〳〵しふきはやかなるはといふに、物もいはでみすおもたげて、そよろとさしいるヽは、くれ竹(○○○)のえだ成けり、おいこのきみにこそといひたるおきヽて、いざやこれ殿上にゆきてかたらんとて、中将新中将六位どもなど有けるはいぬ、頭弁はとまり給ひて、あやしくいぬる物どもかな、おまへの竹おおりて歌よまんとしつるお、しきにまいりて、おなじくは女房などよび出ておといひてきつるお、くれ竹の名おいととくいはれて、いぬるこそおかしけれ、たれがおしへおしりて、人のなべてしるべくもあらぬ事おばいふぞなどのたまへば、竹の名ともしらぬ物お、なまねたしとやおぼしつらんといへば、まことぞえしらじなどの給ふ、まめごとなどいひあはせてい給へるに、此君とせうすといふ詩おずして、又あつまりきたれば、殿上にていひきしつるほいもなくてはなど、かへり給ひぬるぞ、いとあやしくこそありつれとの給へば、さる事には何のいらへおかせん、いと中々ならん、殿上にてもいひのヽしりつれば、うへ〈◯一条〉もきこしめして、興ぜさせ給ひつるとかたる、