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古今要覧稿
草木
瑇瑁竹瑇瑁竹は今駿河国藤川の傍なる木島郷にあり、即ま竹の一種、斑文ありて最長大なるもの也、〈◯中略〉或人の其地に至る時、土人此幹お擘て篾となし、蛇籠お作りて藤川に於て、洪水お遮ぎりしといへり、かヽる奇竹お以て尋常の用に供するものは最おしむべし、扠此瑇瑁竹は旧より駿河国にのみ産して、その他諸国またこれある事なきお以て、諸家本草絶て此竹お載せず、  玳瑁竹 〈紫箬竹〉玳瑁竹は、漢名お紫箬竹といふ、其高二尺許、葉は熊笹に似て、細小にして長八九寸、広さ一寸余、其葉おほよそ七八葉お以て一朶とす、我は五葉六葉のものあるは、必ず下葉の枯落しにて、全形にはあらず、其葉面また熊笹の如く、正中に淡黄花なる一縦道ありて、其左右おの〳〵八線路相並て、共に葉本より葉先に至る、此竹小なりといへども、其節間独枝お生じ、及び籜おちざる事、また熊笹の如し、但毎節下紫黒色なるお異なりとす、此種今松平越中守大塚下邸にあり、〓に移し植しより十余年お経るといへども、其時の儘にて更に生長する事なしといへり、されば此竹は大竹には非ずして、箸の類なる事明らけし、