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西遊記
続編二
孟宗竹薩隅の辺に唐孟宗竹といふ竹あり、人家に多し、常の竹よりは薄く、節低く葭に似たり、然れども甚だ太くして、大なるものは二尺廻り以上に至る、花生等に用ひて、甚見事なり、此竹冬笋お生ず、味甚だ美なり、寒中にも平皿一はひの笋お生ずること、他国にはいまだ見ず、京都にも甚だ細く指ばかりなるは、早春に出して料理に用ゆれども、名計り珍らしくて、味は宜しからず、孟宗竹の笋は、大ひにしてしかも和らかに、味夏の笋におとらず、若此笋お京都に送り登さば、希代の珍味なるべけれども、道路三四百里お隔てたれば、其事協はず、おしむべし、風の透間のなき様に送れば、漸々長崎までは、無事にして届けりといふ、夫より遠方へは、損じて送りがたしとなり、此笋元来常の竹の子よりも、格別和らかなるゆへ、猶損じやすしとなり、孟宗竹の孟宗は、古人の名なり、親の為に冬笋お得たる事、廿四孝に見へたり、此笋寒中にも出るゆへに、孟宗竹といへり、元来唐土より渡り来れりといふより、薩州にては唐孟宗と呼なり、